ドリュー・バリモア『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009)/暴力、痣、贖罪
日陰で書いたものを日向に移していこうキャンペーン、その3。
◆前置き
まぎれもない大傑作であるこの映画のすごさは、実際には非常にこまごまとした工夫とそれぞれの的確さにあるとは思う。逆算の脚本。豊富なユーモアと遊び。アクションですべてを演出するという映画の夢と、それが実際に成功していることの不思議。これらを説明することはとても大変であり、かつあまり間口の広い話でもないだろう。面倒くさいし、能力が足りていない気もするし、やりたくない。
というわけでいつものように、主題が語っているものを、具体的な証拠から書いていこうと思う。
いつものように、ネタばれありの、すでに見ていることが前提となっている評だよ。
◆暴力、痣、贖罪
プレイヤーにとって、ローラースケートの魅力は、暴力を公然と振るえることにある。
品行方正さを両親から強いられる本作のヒロイン、エレン・ペイジにとっては、ローラスケートは暴力を公然と振るうことのできる格好のストレス発散の場となっている。ローラスケートは理性のたがを外す、夢なのだ。
では、そんな品行方正さをエレン・ペイジに強いる両親が、本当に品行方正なのかと言えばそんなこともなく、エレン・ペイジとその親友であるアリア・ショウカットがアメフト(?)のユニフォームを着て「試合観に行きたい!」と旗を振る場面では、二人はタバコと酒を隠すのである。これは後半の展開に効いてくる。
さて、品行方正という枷で縛られた退屈な日常に暴力でおさらばしたエレン・ペイジは、殴ったり、殴られたりすることで、つまりは喧嘩することでコミュニケーションを続ける。しかし、そうしているうちに暴力事件を起こしてしまう。ヒエラルキー上位にあるクラスメイトを怪我させ、先生に怒られるわけだ。それだけではない。同じローラーガールズの先輩には「お母さんにそういう態度をとるのはよくない」と注意され、にっくき仇敵にも「あたしがあんたなら今はまだローラースケートはやらない」とお灸を据えられ、親友アリア・ショウカットとの仲たがいをし、はじめてを捧げた彼氏の浮気疑惑すら発覚する始末。
踏んだり蹴ったりである。
エレン・ペイジは、ここにおいて自分がローラスケートで振るった暴力の罰を受けていると解釈できる。まあ、これ自体はよくあるプロットの定型であり、その後の展開も別段これといって定型を外しているわけではない。
しかし、本作の仲直りのシーンは素晴らしい。
母親との仲直りの機会がやってくる。「はじめてを捧げたのに……」と彼氏の浮気疑惑を嘆くエレン・ペイジに対峙する母親は、なんとも気持ちよさそうにタバコを吸っているじゃないか! あのタバコの素晴らしいこと! そして背景に映っている冷蔵庫にはりついている赤いハート形のマグネットの素晴らしいこと!
悪事を共有することによって許され合うわけだ。モラルを説く者もまた、自分がモラリストでないことを明かすことによってエレン・ペイジは許される。それらがすべて動作によって語られるのである。まだエレン・ペイジはセブンティーン。イーストウッドのような「許されざる者」ではないのだから。父親とも随分軽い調子で仲直りする。二人はもう、車の中で酒を飲み合った時点で悪事を共有しているわけだから、これは驚くに至らない。
そこからはとんとん拍子。仲直り合戦は続く。ここで重要なのは、仲直りに重要なのは言葉ではないということ。添えられる言葉は単純で、決定的なアクションこそが大事だということ。ゴミ袋を一緒に捨ててあげるアリア・ショウカットの素晴らしいこと。彼女はあれだけ馬鹿にしていたバードマンに突然キスをしてしまうのだが、心理的にはよく分からないものの(弱った女こそ口説け、ということ?)どういうわけかそれからの二人の恋仲はなんとも説得的に思えるのだから、本当にアメリカ人という奴らは訳が分からない。
彼氏の悪事にもキスと(いささか弱いものの)張り手という罰が下り、彼もきっちりと「許される」側に入る。そしてクライマックスの決勝戦では、エレン・ペイジは試合中にタックルを受けて場内が静まり返るくらいの一撃に倒れるのだが、そこから立ち上がる。その彼女はまるで英雄のように拍手で迎えいれられ、そこにカメラはきっちりエレン・ペイジを見つめる母親の表情をカットインしてくる。
ゾーイ・"デス・プルーフ”・ベルが友人に指摘されて青痣を見せ合う場面を、そしてエレン・ペイジが母親に青痣を見つけられて叱られる場面をここで思い出そう。これは、暴力を見世物にすることの功罪をモチーフ化しているものだ。暴力への倫理的憎悪の一方で、どうしてもどこかで暴力を欲するという矛盾を内包したわたしたちの罪を、ローラーガールズが代表して贖罪してくれている。その贖罪の証こそが、あの痣なのである。
この見せ方が軽くて、さりげない。暴力的で野性的な映画だが、素敵な青春映画として収まっている。
◆ところで
本作の監督であるドリュー・バリモアも、きっちりと主人公チームの一員として映画に参加しているが、かなり暴力的なキャラクターとして描かれている。敵チームに暴力を振るって退場させられるのはもちろんのこと、自分のボーイフレンドにさえ馬乗りになって暴力をふるっているのだから容赦がない。
しかし、このドリュー・バリモアは、最後の試合でとうとう相手にやり返すことをせずチームの勝利を優先するという行動をとる。そんなドリュー・バリモアの鼻血顔が忘れがたい映画でもあった。
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2010/12/15
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 120回
- この商品を含むブログ (132件) を見る