最近読んだもの(『戦争熱』、『老いたる霊長類の星への賛歌』)

短い文章で書くと、その作品を容易に類型化してしまえるところが怖いので、出来ればこのブログでは長い文章で書きたいわけだが、一方で記憶することがこのブログの目的でもある。類型化が怖いからと言って何も書かないでいると、例えば短編集の中でも、あまり印象に残らなかった短編に対する記憶なんて、あっという間に消えてしまうに違いない。それもそれで(僕にとっては)よくない。

というわけで、長文で書く体力・やる気・技術などを持ち合わせていない時は、今回のようにだらだらと短く書いてみることを自分に許してみる。

このブログの読者がいるとして、読者の方も長文に付き合うだけの体力とかやる気とかが湧かない時があるはずだろうし、この文章はそういう風に半信半疑のぬるま湯的態度で扱って貰えればいい。

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■『ウォー・フィーバー―戦争熱』J.G.バラード
実は読みかけ。残りは読んだらまた書く。


「ウォー・フィーバー戦争に対する処方箋のSF的奇想。伊藤計劃が影響を受けていそう。
第三次世界大戦秘史」第三次世界大戦=核戦争はわずか4分で終結した。しかもそれを知っている一般市民は自分だけだった。堂々とニュースに流れていたのに……という抜群の掴みから始まるのは、レーガン大統領の健康状態を常に観測し報道するテレビ放送に国民が齧りついている、という奇想。最後にはとうとう心電図を表示するようになるわけだけど、ラジオで心臓の鼓動を流したという20世紀初頭の実話を連想した。そういう一時代の科学と社会の歪な結びつき、語られ方が面白い。オールドフューチャー。
「夢の船荷」船から流出した化学物質で島の生態がヤバいことに!? 段々虹色サイケな描写が拡大されていき、語り手が「空も飛べるはず」とか言い出すので大変サイケ。60〜80年代を想像したけど、90年に書かれたのか。
「攻撃目標」『殺す』の語り手でもある精神医学の専門家リチャード・グレヴィルが語り手。思い出せないけど、微妙に肩書が違うような……。1984年当時のキ印的要素をかき集めたような言葉の群れをなぞるだけで楽しい。元宇宙飛行士の救世主スタンフォード大佐を狂信者「ザ・ボーイ」が暗殺する!?
エイズ時代の愛」マルケスの長編『コレラ時代の愛』のパロタイトル。マルケスのも「愛」を病気のようなものとして扱っていた気がするけど、これもまあ愛と病気の話と言えばそう。分かりやすく管理社会ネタなので古びるのも早そうだが果たして。
「航空機事故」1000名の乗客を乗せた世界最大の旅客機が事故ったので、スクープを狙いに走るジャーナリスト。自分だけ出し抜こうと農民の怪しげな噂を頼りに道を分け入っていくとドンドン奥へ奥へと行ってしまい……。
「未確認宇宙ステーションに関する報告」無限図書館ならぬ無限宇宙ステーション的な。僕は、廃棄された宇宙ステーションフェチでもあるのだが、あまり反応しなかった。
「月の上を歩いた男」タイトルに惹かれたが、宇宙飛行士遭難ものではなかった。でもこれはこれでそういう類のフェチズムをくすぐってくれる。宇宙飛行士になったことすらないのに、宇宙飛行士としての体験を語ることで日々の糧を得ている男の話。


■『老いたる霊長類の星への賛歌』ジェイムズ・ティプトリー・Jr
かなり長きにわたって読み続けているので、もう内容を忘れたものが多い。かなりだらしない。


「汝が半数染色体の心」エグい生物学SFネタだった気がするが、あまり覚えていない。
「煙は永遠にたちのぼって」滅茶苦茶良かったし、読了後「こういうものを読むためにティプトリーの本を開くのだ」とさえ感じたけど、今思い出そうとしても内容を全く思い出せない。
「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」宇宙船で突然タイムリープしてしまい、女しかいない世界にたどり着いてしまった話。本番であるはずの後半よりもむしろ、宇宙空間で突如出会った宇宙船二隻が互いに矛盾したことを言いながら疑心暗鬼に駆られつつ交信する導入部が好き。
「ネズミに残酷なことのできない心理学者」タイトル通りの語り手が色々悩み、色々起る。語り手の立場がはっきりと最初に提示され、登場人物も少ないだけあって、この短編集では最も筋を追いやすい短編だと思う。蠅の王とハーメルンの笛吹きの引用もあって、幻想譚っぽい味わい。虐殺の話だが。
「すべてのひとふたたび生まるるを待つ」恐竜から始まり、インディアンへ、ホロコーストへ、そして未来へ、とティプトリーらしい規模の大きな短編。完全な存在の行く末。


追記ティプトリーの短編集のタイトルが間違っていると指摘されたので訂正しました。てへぺろ。/『老いたる霊長類の星への賛歌』の最後の二編を読んだので追加。/『戦争熱』の感想を追加。