Aphex Twin 『Piano Tuners』

深夜にぼーっと眺めていたが、殆どの人が怖い映像だと感じるんじゃないだろうか。
トムとジェリー』。と言ってもこれはあの有名な猫とネズミの方の『トムとジェリー』ではなく、ヴァン・ビューレン・スタジオが製作した1930年代のアニメ。それにAphex Twinの音楽をタイトル繋がりで掛け合わせたと言う代物。

この怖さは何なのだろう。僕らが普段いかに音楽に引きずられて映像を見ているのかということをこういう映像を見る度に思うのだが、初期のアニメーションはこうして音や物語を分離してみた時、とても怖いと感じることが多い。小さい頃見ていたディズニーの古いアニメや、宮崎アニメに感じた怖さと、この動画に感じる怖さというものは似ていると思う。『もののけ姫』のたたり神を見た時に感じる、生理的な嫌悪感を思い出して欲しい。

まず、この映像で表現される世界は、僕らの住んでいる世界と似ているようでちっとも似ていない。このアニメの世界では、あらゆる物質が表現のためにぐにゃぐにゃと捻じ曲げられ、物理法則も無視される。しかも、やたらめったらと動く。なぜそこまで動かすのか、なぜそこまでぐにゃぐにゃと捻じ曲げるのか、さっぱり目的が掴めない。運動は心理的ではないからだ。

理由の明らかでない運動のために、よく見知っている世界の在り様を徹底的に捻じ曲げられるという行為は考えてみればとても暴力的だ。

アニメには何かと「実は怖い〇〇」という都市伝説が生まれがちだし、「このアニメの〇〇話が怖い」という話も検索すればすぐに出てくるが、それらの言説はつまるところアニメの運動が持つそもそもの怖さに何か理由をつけようとして誕生するというところがあるんじゃないだろうか。