ロバート・ロドリゲス『シン・シティ 復讐の女神』(2014)


もう好き嫌いの話にしかならないことを覚悟して書くのだけれど、いつかロドリゲスの非常に雑な映画が見たいと思っていた人間としては、これを見て、ああこれは本当に雑だと思って楽しめた。楽しめたのだ。

思えば『マチェーテ』も『マチェーテ・キルズ』もお話が複雑過ぎたし、それぞれのアイデアが賢し過ぎた。要するに、最近の(と書くのは昔の作品を見たのが本当に遥か昔だから)ロバート・ロドリゲスの撮る映画は頭が良過ぎてどうにもノレないことが多かったのだが、今回は(昨今不評の)フランク・ミラーに主導権を渡したからか、ストーリーが雑でよかった。語の正当な意味でパルプな感触だ。正直のところ、ジョセフ・ゴードン=レヴィットの出る「The Long Bad Night」以外はあまり面白くはないのだが、クライマックスを担う(が、あまり出来のよくない)ジェシカ・アルバの復讐譚のおかげで、ああいったエピソードを持つジョセフ・ゴードン=レヴィットが尚一層輝くという感触も、悪食かもしれないが感慨深かった。とにかく『マチェーテ』のようにお話が複雑になり過ぎて中盤以降、ついて行く気が失せる、という事態がなくなったことは個人的に大きかった。前作の『シン・シティ』も、作品の良し悪しとは無関係に、ピンで二時間を越えられるとどうにも胃もたれがしてきたというところもあって、この103分はそこそこのサイズ感でいい。

では、雑になったことによってどういう側面が強く出たのかと言うと、俳優のコスプレショーという趣きだ。『マチェーテ』シリーズの美点として、個性的な俳優のキャスティングがあり、それだけでなく映画中で過剰にキャラを立ててみせ、個性的な顔を大映しにし、映画的な見せ場を作ってくれるというサービス精神があると思うのだが、今回も俳優の肉体の活かし方は魅力的だった。『マチェーテ』シリーズは、尻に複雑過ぎるシナリオという重しが乗っているが、『シン・シティ 復讐の女神』は短編の集積といった感触なので、ストーリーが顔を出してきて興をそがれるといったこともない。思う存分、俳優たちの肉体を楽しもう。アクションはどちらかと言うとコミック的で、アニメ演出も多いし、映画的な空間の使い方には乏しいのだけれど、それはまあコミックと映画の折衷としての『シン・シティ』にはもとより望むべくがないものだと思う。今回はとりわけ「撃った!」「倒れた!」「殴った!」「倒れた!」という感触が強いし。

だから必然的に、俳優たちの肉体に注視するというわけだ。

そういうわけで、これまたジョセフ・ゴードン=レヴィットになるのだが、期待通りに殴られ顔がとてもいい。調子に乗ったギャンブラーの優男という役にはまりにはまっている。ここまでくると、まるで殴られるために生れてきたかのようにも思える。ちょうど、『BLACK LAGOON』のロックをそのまんま実写化したみたいな感じ。とここまで書いたところで、『Mysterious Skin』という日本未ソフト化の映画で、性的児童虐待の文脈でジョセフ・ゴードン=レヴィットが殴られまくっているらしいことを知ったが、これはちょっと洒落にならないので、あくまで、「The Long Bad Night」のジョニーを演じているゴードン=レヴィットという文脈に限定しておこう。コインを弾いてキャッチしたり、トランプをキザにカットして配ったり、ボコボコに殴られたり、激痛に悶えてみたり、痛ましい姿でキザな強がりを言ってみたり、涙目を浮かべてみたり、とゴードン=レヴィットの持てるカードを存分に引き出しているなあと思った。やはり「The Long Bad Night」は充実の一編なのだ。

それ以外だと、エヴァ・グリーンのいつもながら豪快な脱ぎっぷりもまあ、なんだかCG的な質感が残念な気もするが、とにかく嬉しいわけだし、そして前作よりもたっぷりと、(そして過激に)撮られているジェシカ・アルバのショーも悪くない。ジェシカ・アルバにはもう一つ、肉体の見せ場があるしね。レディ・ガガは流石にカメオ的な出演だった。『マチェーテ・キルズ』では輝いていたんだけど、まあ確かに『シン・シティ』のメインキャラにするのは躊躇われるだろう。あと、フランク・ミラーロバート・ロドリゲスがこれまたカメオ出演するのだが、フランク・ミラーの違和感のないクズ野郎っぽい風格には御見それしました。マーヴを演じるミッキー・ロークはと言うと、今回はもう『シン・シティ』シリーズ公認のお助けキャラみたいになっていて、なんというかこれでいいのだろうかと思った。愛嬌は増したけど。

そういうわけで、総合してみるとやはり「The Long Bad Night」の出来がよかったせいで肯定的になれているだけなのかもしれないと思うような記事になってしまったけど、ロドリゲスの撮る、散漫な映画はいいなと思わされたので、この路線で撮ってみて欲しいという気持ちは大いにある。「The Long Bad Night」級のエピソードを4、5本並べて、特にエピソード間の繋がりを作らず、俳優のコスプレショー、肉体ショー的な側面に特化し、ただ『シン・シティ』という世界を浮かび上がらせるような作品を見せて貰いたい。出来事や小道具に意味や知性を感じさせないような、散文的なロドリゲスを待ち望んでいる。