デヴィッド・クローネンバーグ『イグジステンズ』

イグジステンズ
eXistenZ
1999年 カナダ・イギリス 97分
監督:デヴィッド・クローネンバーグ

髄にバイオポートという穴を開け、生体ケーブルを挿しこみ、ゲームポッドと人体を直接つないでプレイするヴァーチャルリアリティーゲームが流行している未来で、アンテナ・リサーチ社から発売される、天才ゲームデザイナーのアレグラ・ゲラーの新作『イグジステンズ』の発表イベントがなぜか教会で開催されており、そこでは一般客とアレグラ・ゲラーが一緒にそのゲームを体験することができるらしいが、ゲームが始まってすぐに、遅れ入ってきた青年の持っていた奇妙な銃でアレグラが撃たれてしまい、発表会はもちろん騒然となり、警備員がアレグラを連れて逃げ出していくことになるが、ゲームが正常に機能するかどうかを確かめるためにアレグラと警備員は、現実と虚構の区別がつかない連続的なちゃぶ台返しであるゲーム空間に飛び込むことになる。
の出番が多い、実質的な『ビデオドローム』のセルフリメイクであり、クローネンバーグのSF的な感性と、ポルノグラフィティな欲望と、ノワールの才能が結合した作家性の強い一作である。突然変異した両生類の有精卵からできているゲーム機との結合はあからさまにセックスの隠喩になっているし、公に開かれたセッションでは有名人が襲撃されるし、途方もなく不味そうな中華料理からはグロテスクな生体銃が作り上げられるため、仮想現実ゲームに没入して現実と虚構の区別がつかなくなるという世紀末にあってもはや手垢のついた素材はもっぱらクローネンバーグのやりたいことをやりつくす箱庭として利用されている。それだけだと単にだらしがないだけの作品となるところが、歯の生体銃、拳銃、圧力銃、火炎放射器短機関銃というバラエティに富んだ銃の登場と、女性の役割の大きさから、クローネンバーグ本人は知ってから知らずか備えてしまっているノワール作家としての才能を遺憾なく発揮しているため、ある種の迫力がある。終盤、ほとんど死ぬために出てくるボブカットのサラ・ポーリーもいい。クローネンバーグに興味のない向きにはきついかもしれないが、好きな人間にとってはこれ以上ない傑作に仕上がっている。衣装は姉にあたるデニース・クローネンバーグ。