オリヴィエ・アサイヤス『DEMONLOVER デーモンラヴァー』
DEMONLOVER デーモンラヴァー
Demonlover
2002年 フランス 120分
監督:オリヴィエ・アサイヤス
3Dのポルノアニメの買収を手掛けようとしているヴォルフ社では、どうやら何者かの謀略によって再起不能にされた女上司に変わって、新たにディアーヌという名の女性が幹部の椅子に座ることになったようで、そのことをよく思っていない助手のエリーヌに邪魔をされたり、同僚のエルヴェといい感じになったりならなかったりしながらも買収権を獲得することになるが、デーモンラヴァー社との提携交渉に入ったところで怪しげな産業スパイと、ポルノ事業の裏にある悪徳組織の影が見えてくる。
企業間競争をノワールの話法で見せた意欲作といったところだろうか。TVのザッピングに、グロテスクな日本製アニメーション、今見るとショボい3Dポルノアニメ、ディスコの眩惑的な撮影、水滴のついた自動車の窓ガラス、寄り気味でぶれまくるカメラ、乱暴なパン、などがプロットとも相まって視覚的な混迷さを生み出しており、その点で成功している。気絶するたびに自分の居場所が分からなくなっていくストーリーテリングや、作中で出てくる犯罪がどんどんエスカレートしていく様や、「セルアニメ」→「CGアニメ」→「コスプレ拷問」→「主人公自身が画面の向こう側に」という段取りのある現実感覚の喪失にはノワールの文脈を感じさせる。アサイヤスは『レディ・アサシン』と同様、現代ノワールにおいて一人の人間を闇に葬るには、もはや暗闇は必要ではなく、無国籍で匿名的な風景があればいいと主張している。この風景は、同じくノイジーなロックミュージックを響かせる『アウトレイジ』シリーズの無国籍性とも不思議な共鳴を見せつつ、全編ドラッギーに決まっている。自立した大人の女性でありながら、女スパイとして暗躍し、本作では一貫してアイデンティティを収奪されていくことになるディアーヌがコニー・ニールセン。同僚エルヴェを演じ、一貫してスケベなフランス男性というイメージを崩さないのがシャルル・ベルラン。女上司への反感を隠さず、どこか子供っぽいスタイルで、裸のままゲームをするなどの絵面を提供してくれるエリーヌがクロエ・セヴィニー。丁度ジム・オルークが参入して脂の乗り切ったソニック・ユースの音楽が全編にわたって使われており、なんとジム・オルークがかなり本腰を入れて作品に参加しているらしい。車が横転して炎をなめながらコニー・ニールセンを撮るところで甘めの曲調になるあたりのいかにもソニック・ユースな感じにグッときた。ジム・オルークが映画音楽に行ったのって、『デーモンラヴァー』に触発されたからなのだろうか。新宿の飲み屋で会えるらしいという未確認情報があるので、今度もしジム・オルークに会えたらそのあたり訊いておきたいものである。