フリッツ・ラング『マンハント』

マンハント
Man Hunt
1941年 アメリカ 105分
監督:フリッツ・ラング

ポーツ感覚でヒトラーを狙う英国紳士は、なぜか途中でライフルに弾丸を込めてしまうが、なぜそうしたのかを自分でもよく分かっていない。とはいえその姿を見つけられてしまうので当然こいつは総統閣下の暗殺を試みる刺客だということになり、ドイツ兵士ともみくちゃになって争って結局は捕まってしまうし、そうなると「スポーツだったのだ」という言い訳は立たない。もちろんゲシュタポの片眼鏡将校は紳士に供述書を書くように強要するのであった。とはいえ実はお偉いさんの関係者であることが知れ、拷問にも耐えた紳士を仕方がないのでゲシュタポは谷へと落とすことになるが、あいにく下は沼地だったために紳士は生き延び、犬を使った捜索もむなしく、紳士は商船へと逃げ込むことに成功する。ドイツ兵による捜索からは商船の子供の計らいによって難を逃れるものの、商船にはその紳士の名前を偽った死神のような男がやってきて、そいつだけは不吉なのであった。無事祖国へ着いた紳士はそこでも安心できず、ゲシュタポの執拗な追跡を受け、つい逃げ込んだアパートで一人の下層階級の女性にかくまってもらうことになる。その女性を連れて実家に戻るとその実家は非常な名家であるため、下層階級の女性は大層感動し、貴婦人はかなり困惑することとなる。それからしばらくは追跡もなく、紳士と女性は仲良くなっていくが、それも束の間のことであり、ゲシュタポの攻勢は再び強まってくるし、二人は橋で悲しげに別れることになる。最終的には女性が人質に取られ、洞穴にこもって隠れていた紳士は、相変わらず供述書を書かせようとする片眼鏡将校に追い詰められ、とうとう反ナチスの信条を獲得するに至るのであった。
活なアクションの人間である英国紳士が、深刻な愛国者となって一人前の兵士となるまでを描いた反ナチプロパガンダ映画である。あらすじを見ても明らかなように、まずスポーツ感覚のアクションが先行しており、ヒトラーを狙うことの動機が欠如している。この因果関係の逆転がなによりも面白く映画的であり、そのことを見えやすくしているものが供述書であり、紳士はそれにサインすることによって真の愛国者となる。すなわち、紳士はサスペンス活劇の過程によって女性と知り合い、ゲシュタポに追い詰められ、その女性を救うという活劇のために愛国者になるのである。フリッツ・ラングは職人的な腕前を振るっており、単純に見ていて面白い。紳士はウォルター・ピジョン。ヒロインは『飾窓の女』や『緋色の街/スカーレット・ストリート』でも再登場するジョーン・ベネット。冒頭のスコープ、船でのかくれんぼ、地下鉄トンネルでの死闘、郵便局での手紙の強奪、最後の洞穴、などといった穴のモチーフが繰り返し現れる映画でもある。