デヴィッド・リンチ『イレイザーヘッド』

イレイザーヘッド デイヴィッド・リンチ リストア版 [Blu-ray]

イレイザーヘッド デイヴィッド・リンチ リストア版 [Blu-ray]

今更ながら『イレイザーヘッド』を見ていた。
見たことがあるのは『ブルーベルベット』以降の作品ばかりで、初期リンチは全然見ていなかったのだが、これはかなりよくできていた。


構造的に捻ったことはあまりしていない。「結婚にまつわる男性の不安」という日常的な動機がとっかかりになってストーリーの流れを作っているので、みかけほど難解ではない。

視覚的にも聴覚的にも多彩な質感の素材をかけあわせたコラージュになっていて、その組み合わせが面白い。流石に引き出しが予測できなかった。流派としてはシュールレアリスムということでいいんじゃないだろうか。ホラー映画やフィルムノワールの意匠を借りつつも、伝統的な映画とは違う場所からやってきた感じがあり、こういう突飛なことをやる人というのはダリもそうだけど単一のメディアに回収されないものだなあと思った。

リンチとしてはまだ、あまり顔そのものにこだわっていなくて、髪型とか、表情とか、特殊メイクとか、美術とかで頑張っている。

本作で組み合わされる質感を、思い出せるだけ挙げてみた。


1)視覚面
・内臓系
 未熟児/何度も出てくる子宮の片割れ?のようなもの/小さな七面鳥

・地面系
 ごつごつとした岩肌/苗木の土/クレイアニメ

・毛髪系
 あの変な髪型/妄想の世界で歌っている少女の顔毛/白い液体に沈む女の頭髪

・液体系
 水溜り/血液/体液/ベッドに現れる液体

・粉末系
 デスクから手で払われる粉/宙に舞う粉塵

・はりぼて系
 未熟児を模したもの/切り落とされた頭部/穴のあいた岩?

・ぶつぶつ系
 冒頭と最後に出てくるレバーのようなものを操作する男の皮膚/未熟児に浮き出る発疹

・強すぎる光
 妄想の世界に出てくる少女/天国の場面 

・伝統的な白黒映画の陰影
 隣の部屋の女/アパートの部屋


2)聴覚面

・地鳴り系
 宇宙空間の音/風の音

・甲高い音
 急に開くドア/未熟児の泣き声

・破裂音系
 乳を吸う子犬たちの音/小さな七面鳥の立てる音/未熟児のあげる音

・摩擦系
 目をこする音/ベッドの手すりを擦る音

・機械装置系
 レバーの音/首だけになった主人公が届けられたとこの機械装置