M・ナイト・シャマラン『ハプニング』


シャマランのブルーレイを買いまくったので見ていく。『ハプニング』は約5年前に見ていて、当時の感想がこんなかんじ。

奥さんの無表情を観る度に驚く。悪い作品ではないのだと思うし、風だけで恐怖を煽り、ワンカットの中で滑稽なほどあっけなく人を殺していくアイデアなどは黒沢清に似ていて好みなのだけれど……。説明が多いのが目につく。シャマランのクロースアップは失敗ではなく明らかに異様なんだが、それでも息苦しく、近景と被写界深度の浅い画面に、光への拘りの無さ等々が拷問のように効いてくる。笑えるだけでは苦しい。スピルバーグの『宇宙戦争』を観た後でこれにハラハラしろというのは少々難しい。

今回は、ものすごく面白かった。

改めてみると『ハプニング』はきっちりと作られた往年のB級映画みたいだった。本人も、ドン・シーゲル『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』と冒頭がそっくりなことに気がついた、みたいなこと言ってたけど。どちらも不気味な雲がうねうねと早回しでうごめている光景をバックにクレジットが出るオープニングで、確かにそっくり。植物がネタになっているところは偶然だろうけど、これも共通点だ。

シャマランの映画であるという以上に、ニュース映像のてきとうな感じとか、お金かかるものを出さないところとか、説明とか理屈付けがてきとーなところも、カルトなB級映画としての伝統的な造形だと思った。あと、顔のアップが近い。顔が見切れるくらい寄っている。これも作品のチープ感に一役買っていると思う。八方ふさがりであることを示すために、十字路のすべての方向から避難民の自動車がやってくるというシーンのミニマルさ!

ブルーレイで綺麗になったせいかもしれないけど、緑色の原っぱに微妙に色とりどりの服を着た人々をわらわらと配置して、フォーカスは甘めで、ロングで撮るっていう絵作りのやりたかったことが実感された。商業B級映画に落とした、ちょっとしたゴダール感みたいな。

DVDで見たときは、狭さ、被写界深度の浅さ、照明の平板さに息苦しさを感じていたみたいだけど、今回は納得できた。

そして、前回の感想でも触れている奥さんの顔。とりわけ目のイメージのすごさ。最初に出てくるカットが衝撃的である。その点を含めてまるっと不安定な存在感があった。それ以降も、その無表情を画面に晒すたびに驚くこととなる。

家族をいったん分離したうえで、人を死に追い込む風が吹いているなかで、お互い外に歩み出ていって中央で再会する。これだけでクライマックスを演出していた。

携帯電話に時代を感じるが、もはやゼロ年代アメリカ映画のルックそのものが懐かしい。題材だけではなく画面の質感でスピルバーグ宇宙戦争』と同時代の映画なんだなと思う。80年代とか90年代はもうとっくに古き良きアメリカ映画って感じだけど、ゼロ年代にもそれを感じるようになった、ということだろう。

ハプニング [Blu-ray]

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