アンディ・ムスキエティ『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。
IT(IT:chapter one)
2017年 アメリカ 135分
監督:アンディ・ムスキエティ

音症の兄につくってもらった紙の船を、弟は排水溝に落としてしまう。このままでは兄に怒られると危惧した弟はその船を拾おうとするのだが、そこにはペニーワイズと名乗るピエロがいて、話しているうちに排水溝のなかへと引きずり込まれてしまった。それからしばらくして学校では、不良グループにいじめられている通称“ルーザーズ・クラブ”の面々が夏休みに突入しており、どうやって夏を過ごすのかを考えている。けれどもビルは、排水溝へと消えた弟ジョージィのことが気がかりで、とても遊ぶという気分になれないでいる。一方で、“ビッチ”と罵られる女の子ベバリーは、図書館に入り浸っているデブの男の子と仲良くなる。不良グループへの反発などもあり、合流していく少年少女たちは親交を深めるのだが、その過程でピエロの悪夢に襲われ、町では子供たちが次々と消えている。これは見過ごせないということになり、“それ”が下水道沿いに現れたことからその住処を突き止める。廃屋に突撃する“ルーザーズ・クラブ”だったが、案の定“それ”と遭遇した結果、エディという少年が骨折し、デブ君が腹を裂かれるなど手酷いしっぺ返しをくらったうえに、内輪揉めによって瓦解してしまう。関係が修復されないまま時間は経過し、そのうちに今度はベバリーが攫われてしまう。この危機に“ルーザーズ・クラブ”は再び集結し、“それ”からベバリーを奪還すべく、再び廃屋へと突撃する。
ティーブン・キング『IT』を原作とした二度目の映画化。なんと27年越しである。悪夢がかなり物質的で、かなり手間をかけて造形されているし、物理的に現実を傷つけるという点で『エルム街の悪夢』を思い出したが、タイトルでの音響の使い方など、ホラーとしてのデザインは同時代の『インシディアス』以降のものを踏襲しているように見える。排水溝を隔ててピエロと会話していた少年があちら側に引きずりこまれ......その水路から外に出たところでタイトルが出る。そのあとすぐ、柵越しの家畜を殺せないので父親に叱られる黒人の少年の挿話に移り、食う側と食われる側のどちらにいられるかは世の中大して保証されていないという説教が、柵というモチーフを通じてとてもわかりやすく提示される。そして、柵から出される家畜たちが、教室から出てくる生徒達に繋げられるので、やはりというか子供たちが次々と食われていく映画になるのだ。少年少女のキャラクターはよく特徴づけられていて、それが家庭環境と通じていたりする。その服装や雰囲気、そしてショックシーンでの悪夢の造形など、プロダクションデザインが相応に練られているし、特にヒロインの顔と髪はとても魅力的でかわいい。脚本には書かれていないような創意工夫をしようという痕跡も見られる。一方で、少年たちが仲違いする場面が段取りくさいとか、ヒロインが特権的に扱われ過ぎてちょっと恥ずかしいとか、青春とホラーが混ざっているせいか登場人物が多いせいか尺がホラーにしては長いとか、エディが病気だらけの男から逃げまどうところや、最後のペニーワイズとの戦闘などのアクションシーンについてはカメラがブレまくっていてとても見れたものではないとか、やたらと斜めに傾けた構図が使われるとか、気になる点もそこそこあった。ナチュラルに子供が人を殺す映画でもある。また、最初にペニーワイズが出てくる場面では、敷居越しに少年が引きずり込まれるのだが、その後の場面もかなりの確率で敷居越しになっているわけで、わざわざ黒人の少年の挿話も入れたわけだから、敷居越しというシチュエーションだけを反復するのではなく、引きずり込むアクションがもっとあってもよかったかもしれないと思った。二段構成はおもしろそうで、続編も見に行くだろうと思う。ペニーワイズは、アメリカへの植民の時期からいて、27年周期で現れるらしく、この設定に一番惹かれた。ペニーワイズとデリー市民の戦いの歴史を描いた年代記があったら読みたい。このあたりの設定を聞くかぎりでは、ペニーワイズは恐怖の象徴というよりもエイリアンかなにかのようだ。SCP財団はこいつを早く収容すべきだと思う。