タイカ・ワイティティ『マイティ・ソー バトルロイヤル』

マイティ・ソー バトルロイヤル
Thor: Ragnarok
2017年 アメリカ 130分
監督:タイカ・ワイティティ


グナロクの預言を語る炎の巨人スルトを倒し、また前作で死んだはずのロキがなぜかオーディンになりすましてアスガルドを統治しているのでこれもしめたところで、ロキと一緒にオーディンを探しにいくと、ドクター・ストレンジのもとで再会するのだが、オーディンアスガルドへは帰らないという。死の間際にありがちなことだが、実はソーには死の女神ヘラという怖ろしい姉がいることが明かされると、オーディンが死んだその瞬間に長女ヘラがかえってきて、二人は一蹴されてしまう。ヘラにアスガルトを乗っ取られた代わりに、辺境の惑星サカールへと飛ばされたソーは、そこで統治者グランドマスターに闘士として売られてしまい、チャンピオンであるハルクと戦ったり、ロキに裏切られたりしながらもアスガルドへ帰還しヘラ打倒を目指すのだった。
題にはラグナロクとあるように、オーディンが死んだり、ムジョルニアがあっさり壊されたり、アスガルドの負の歴史が明かされたりと、かなり物悲しい展開がつめこまれているシリーズ第3作なのだが、それをぶち壊すかのようなギャグシーンがふんだんに挿入されていて、しかもそのギャグがNGシーンをカットし忘れたかのようなゆるいギャグなので、全体的に弛緩した雰囲気がただよっている。そのうえ、上映時間の大半は惑星サカールでの古く懐かしいスペースオペラ的なドタバタコメディなので、ラグナロク感はあまりない。この弛緩した雰囲気がとても好ましかった。わたしのお気に入りは、ブラックウィドウのまねをしてハルクをあやそうとするソーと、ハルクにボコボコにされたソーを見てガッツポーズを決めるロキである(『アベンジャーズ』でロキがハルクにやられたときとまったく同じなのだ)。また、冒頭でオーディンに化けてアスガルドを統治しているロキが、部下にやらせている演劇のくだらなさは印象深い。この微妙にすべってるギャグがゆるくていいのだと思う。そういった戦略でラグナロクの悲劇を横にズラしつつ、神話ではなく国家の話にすりかえている。国家の建国神話を破壊し、アスガルドの市民が国土を失った移民となるので、なんというか「移民の歌」がかかっているのだ。「国家とは土地ではなくそこで生きる人々なのだ」という理屈をオーディンが述べるのだが、現実世界をみるかぎり、それは実現の難しい理想なのかもしれない。