以下では、内容に触れているけど、この映画の面白さのひとつに、目の前で起きている事態がすぐには把握できないこと、そして段々と事実関係がわかってくるという点があるので、まだ未見で、かつ体験を阻害されたくない人はブラウザバックすることを推奨する。
- 基本は修羅場の連続で、映画を牽引していく。
- 「人がめちゃくちゃ訪問してくる」+「主人公が文字通り他人の話を聞かない」の合わせ技がいい。
- このおかげで、ダイアローグがすごく複雑になっていて面白い。
- ハワードの仕事と、オフィスの構造に起因するところが大きい。
- 色んな人間と商売をし、借金をし、賭博をする、個人事業主であるハワードにとって、コミュニケーションを取らなければならない相手はものすごく多い。
- さらにオフィスの構造が効いてくる。事務所→ドア一枚→宝石売場→ドア二枚→廊下、という多層構造で、複数の訪問者が入り乱れることを可能にしており、さらにここに電話が加わってくるので場は益々カオスになる。
- 二枚のドアはスイッチによる開閉式で、開く時にブザーが鳴る。
- また、二枚のドアの間にも空間があることが面白い。
- ハワードは常に複数現れる会話のうち「どれを無視して、どれに取り合うか」を選択し続ける必要があって、その選択が人柄を表しもするし、またそれによって状況が動いていく。
- このオフィスの造形が極めて複雑なダイアローグ(場面によっては3つ以上あるからそれどころではない)を可能にしており、まさにこの映画の根幹ではないかと思った。
- 印象的なラブシーンがある。
- 宝石売場を借金取りに占拠された状態で、ハワードはその奥にある事務所に引っ込んでいるのだが、手に入れた資金をなんとか賭けの場に持っていきたいという場面。
- ハワードは宝石売場にいる愛人に電話をかけて、部屋を出るように指示する。
- その愛人は、口実をつくって売り場を離れると、同じ建物で、ちょうどハワードの事務所の窓の隣にある別の窓にたどりつき、お互いに窓から身体を突き出して、大金の入ったバッグを手渡すというシーン。
- なんとかバッグは手渡せるけど、触れられはしないという距離が、幸福感のあるラブシーンの演出に活かされる。
- 説明的な場面やセリフがほとんどなくて、全体的に作り物っぽさがあまりない。ドキュメンタリータッチで、「カメラの前で本当にこういうことが起こっていますよ」という感じ。
- 被写体とカメラの距離は比較的近い。バストアップが多い。
- レイアウトや審美性を重視するというよりも、被写体そのものがシェイクすることで映画もシェイクしていく感じ。
- 移動撮影は多い。人物の後を追って回り込むような撮影が頻出する。