読書記録「MONKEY vol.20 探偵の一ダース」

 

ずっと長編小説を書いていて、ようやく解放された。 というわけで、ブログを停止している間に読んだ短編の感想を書いておく。



  • 柴崎友香「帰れない探偵」
    • タイトルの通り、自宅への帰り方を忘れてしまった探偵。彼が毎日を耐え凌ぐために仕事をする様子が描かれる。「今から十年くらいあとの話。」という奇妙な書き出しから始まって、坂道が多いという街の説明が挟まる。舞台となる街は具体的な地名が出てくるわけではなく、匿名的な街なんだけど、そのロケーションが魅力的なので想像力がかき立てられた。
    • 探偵で都市というと紋切り型の印象はあったけど、ここで語られる都市は再開発や取り壊し、建て直しによって地図が随時書き換えられていく動的なもので、人は過去あった建物のことを覚えていないし、古地図のデジタルデータに語り手は、「加工された痕があるのではないか」という違和感を拭えない。世界に穴が空いている、という感覚は同著者の過去作にもあったなと思う。


  • バリー・ユアグロー「鵞鳥」
    • 名指しはされていないが、ホームズ、ワトソンの出てくるショートショートでパロディ。ホームズに心底うんざりしていることを自覚したワトソンが非常に地味な嫌がらせをしている。不愉快な爽快感とでも表現すべき、不思議な読後感がある。
    • この人の小説を読むのは初めて。


  • 円城塔「男・右靴・石」
    • 円城塔の探偵小説、ということ以上のことは何も言えそうにない。記者と探偵のやりとりが面白い。いつのまにか記者と探偵のすり替えを試みようとする探偵の語りが面白い。