ジャン・ルノワール『のらくら兵』(1928)

のらくら兵 [DVD]

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 しっちゃかめっちゃか。ほんと自由ですね、この人。

 育ちのよい詩人とその屋敷の召使いが一緒に軍隊に入れられ、同僚たちや上官、二人の婚約者なども絡んで大騒動を巻き起こすというドタバタ劇です。計算でつくるというよりかは画面に登場するたくさんの役者をとにかく好き放題動き回らせてそれに任せるという感じで、物語らしい物語があるわけでもなく、とにもかくにもアクション先行の映画になっています。

 なによりもガスマスク兵の可愛らしさったらありません。ガスマスクフェチは必見と言えるでしょう。ガスマスクをつけた兵士たちがいきなり隊列を率いる人間と真逆に向かい始めるところでもう笑うしかないです。手を取りあってのたのた進む可愛らしいガスマスク兵はころころと坂を転がって落ちていき、子どもを撒きこんで歩き回り、とうとう上官ともつれ合うあたりなんかは、見ていてとても幸せな気分になります。

 他にも、兵舎に入ってきた女性をモノみたいに引っ張り合って、挙句の果てに枕を投げ合って阿鼻叫喚の大騒動となるあたりとか、敵陣突破の訓練風景で暴走する詩人が銃剣を振り回してそこら中を走り回るあたりとか、最後の、将官やその奥様方に見せる演劇のクライマックスに用意された花火が暴走して回転しまくり、客席にまで火花を飛ばす最中、二人の男がめちゃくちゃに殴り合ったり、ホースから水を撒き散らしたり大変な騒ぎになるところとか。ほんとにもうやりたい放題です。カメラもドタバタ劇では手持ちカメラが多用されているだけあって中々にてきとうで、人が見切れてると思ったらいそいそと動かして構図に収め、あるいは主観ショットでふらふらと視線を漂わせ、盛大にピンボケしてみせたり、画面の大半を人の背中が覆っていたり、という具合。最後の大乱闘なんかは、特にそこらへんが顕著で、何が起こっているのかよく分からないカットも多々あります。でもそれが尚一層、映画の混沌振りを反映して面白いという反則技。

 一方でなんだかウェス・アンダーソンを連想したところもありました。とりわけ冒頭は、机を挟んで男女が何度もキスするという画面になっていて、シンメトリーだし、高速パンがあるし、というわけですごくウェスっぽい。さらに言えば、大乱闘をカメラに収めるために舞台の全景を撮ったカットが多いわけですが、そこでちょこまか動く人物はなんだかミニチュア人形劇のように見えるところがあります。そこもまたウェスっぽい。

 いやまあ最近スクリューボール・コメディを少し追っていたんですが、色々見てもやっぱりどう考えてもハワード・ホークスの映画が一番イカレているんですよね。阿鼻叫喚。ジャン・ルノワールの『のらくら兵』を見て、この人も当然のようにこちら側だなと、再確認しました。

 映画なんて、人間ごときが計算するよりも、こうやって天に任せていっちょカメラを回してみました、という方がそれらしいです。当て勘による映画作りと言えば、その最果てはエリック・ロメールだという気もしますが、ルノワールの混沌ぶりにもすごいものがあります。そして僕はもちろん批評的な作品もそれはそれで完成度如何で好きなわけですが、どちらか一方を獲れと言われれば、当て勘に任せた結果、なんだかぶっ飛んだものが出来ましたという、こういった肉体言語的な映画の方を支持します。こういう映画が好きです。