リュック・ベッソン『LUCY/ルーシー』

LUCY/ルーシー
Lucy
2014年 フランス 89分
監督:リュック・ベッソン

 機能の20パーセント以上を使えるようになると新しい世界が開けるという仮説をノーマン博士が披露していると、まったく別の場所にいてまったくの不幸から韓国マフィアの運び屋にされたルーシーというブロンド美女が、腹に詰められたCPH4という青い新型ドラッグが漏れ出したせいで脳機能を拡張させてしまったので、次々と驚異的な能力を発揮して博士にコンタクトをとることにする。まさか本物が現れると思っていなかったノーマン博士はすぐさま研究チームを集めるが、ルーシーは身体の維持が困難になり、それを止める唯一の方法が他の運び屋の腹に詰まったCPH4だと気がつくので、韓国マフィアのボスから情報を得て、フランス警察の一人を脅迫して協力させつつ、韓国マフィアの猛攻をひとなでで壊滅させるなどしてようやく教授のもとへとたどり着く。そして、ルーシーはすべてのCPH4を体内に入れることで脳の機能を100パーセント使うことが可能となり、時を操り、人類の創世記に立会い、その持てる知識すべてを次世代コンピューターに込めて消える。ルーシーはこの世に偏在するようになる。
 ュック・ベッソンによる『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』という趣があり、そのせいかスカーレット・ヨハンソンはまるで草薙素子……それも人形遣いと融合後の素子という感じがある。特に不必要なはずの中国要素もそのあたりから説明できる。韓国マフィアのボスの脳から直接的に情報を抜き取るところなど、人間の脳があそこまで監視カメラのように過去の映像を保存しているとは思えないし、そもそも人間の脳機能が拡張されたからといって通信機器を操ったり、人間を操ったり、外観を変化させたりなどできないだろうと思うのだが、要するにすべて擬似的なサイバーパンクなのだと考えると辻褄が合う(少なくとも何がやりたいのかがわかる)。致命的なのは前半のつまらなさで、冒頭のスカヨハとテンガロンハット男の口論は説明的だし同じくリュック・ベッソンの『アンジェラ』を思い出すような微妙にヒステリックな口論になっていて惹かれないし、モーガン・フリーマンの設定説明は言い訳くさいし、起きていることに自然界の動物のモンタージュを入れて意味的な連想をさせるのも効果的なのだろうか?という疑問符がつく。しかし、中盤のハチャメチャなカーチェイスや、韓国マフィアの病院襲撃のあたりから盛り上がり、最後にはいまどき珍しく崇高さへと突き抜けていくので、全体的にチープなサイバーパンクとして楽しんだ。アメリカ的なバカ映画のつくりに、微妙にヨーロッパのテイストが入っていることが差異になっている。