2023年51週1218_年末は検証の時間

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社外との打合せをするのはこの週が最後だった。それも水曜くらいまでの話で、週末にはクリスマスムードもさることながら、すでに年末のムードが漂いはじめていた。

今週の平日休みも何もできなかったし、全体的に疲れがたまっているので(特に目の疲れと、家事疲れ)、来週は流し気味に仕事をしたい。

Tableau

  • 検証用途にTableau Publicを触っていた
    • Tableau Desktopとほぼ同じ機能だが、(1)一般公開されてしまう、(2)接続できるデータソースが限られるといった制約がある。そういった部分に注意さえすれば、検証用・学習用に触るのによさそう。
    • Windows版をPCにダウンロードする。
    • チュートリアル:Tableau Desktopを始める前にをステップ5まで取り組んだ。

読書

町田康『ギケイキ』 を読んでいた。いつもの町田康といえばそうなんだけど、義経が火を吹いて家屋を焼き払ったあたりで「元ネタの『義経記』にも同じ展開があるの? それとも町田康のアレンジ?」と困惑してきた。

2023年50週1211_キッチン瑞穂の味と思い出

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大学時代によく利用させてもらっていた洋食屋である「キッチン瑞穂」が閉店するという報を聞いて、当時の友人たちと訪ねた。


キッチン瑞穂

胃袋の関係で、カツカレーの特大サイズこそ頼めなくなったが、記憶と変わらない味、変わらない値段がそこにはあった。

このあと雨が降ってきた

並サイズ。
味は和風カレー?というのか、慣れ親しんだ感じ。この時はそこまで混んでいなかったけど、現在は閉店前ということでお客さんが殺到しているとか。


京都観光とわらび餅

ついでに宝泉堂でわらび餅を食べてきた。混んでいるんじゃないかと思っていたけど、偶然なのか、人も少なくて非常に良かった。

趣深い外観
わらびもちとは思えない外観

ここのわらび餅は、ジャンルとしては精進料理に近い気がする。 横にある緑色のビールみたいな飲み物は、アイス抹茶。抹茶が苦手な自分でも問題なく飲める。


Keychron Q10

職場のキーボードのEnterキーが遠すぎ問題に悩まされていたので、購入した。自分が持っているキーボードで間違いなく一番高価で、一番重量がある。 スペックは以下の通り。

感想

  • Alice配列初体験なのでそもそも慣れないが、探索の一つとしてやっている。
  • こういう特殊配列の問題点として、適応しちゃうとノーマルな配列に戻れないことがあると思う。HHKBに手を出していないのもそれが理由。職場・家・ノートPCの3つ全てのキーボードの配列とキーマップをなるべく統一したいので、その関係上、買うなら3つ買う必要がある。(なのでノートPCに寄せる構成になりがち)
  • VIA対応は初めて触ったけど、ブラウザからキーマップをGUIで変更できるのは簡単でいいですね。早速、Cap lockキーをLedf Controlキーに、右親指側のスペースキーをバックスペースに変更した。
  • VIAがちょっと楽しかったので、なかなか取り組めていなかった全デバイス・アプリ共通キーバインドを目指すというのもいいかもしれない。

読書

  • 『プロダクトマネージャーのしごと』
    • オライリー本。予想よりもずっと的確に、自分が今まさにやっている仕事について書いてあってビビった。
    • 読み終わったら記事を書こうと思う。


  • 『インディーゲーム・サバイバルガイド』
    • 友人が面白いと言っていたので、買ってみた。
    • インディーゲーム制作の、ゲーム制作以外の部分(宣伝とか、外注とか、その他諸々の実務)について書かれた本で、基本的にゲーム制作を実際に始めるひと向けの実務書。まだ読んでいる途中だけど、インディーゲームで食っていく方法について書かれていて、興味のある向きには楽しい。
    • 実際にやるのかは別として、もはや小説を書くよりも、steamにノベルゲームを発表するほうが興味をそそられる時代すね。

2023年45週_キックオフの週、あるいは積読はすべて未完了タスクなのでシングルスレッドを妨げる

前置き

  • 5週遅れくらいで書いているので、GoogleカレンダーAmazonの購入履歴を読みながら書いている。
  • この週くらいから、今までずっとできていなかった「タイムボックス」制の導入ができつつあり、少なくともGoogleカレンダーでいつ何をしていたのかがみっちり書けるようになった。

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  • 次の仕事のための仕込み、キックオフが多い週だった。あと議事録に予想以上に苦しんでいて、4時間くらいかかっている。
  • プライベートでは子供関連の大きなイベントがあった。

読書

  • 話題になっていたので、牛尾剛の『世界一流エンジニアの思考法』 を手に入れて読んでみた。この本では生産性に関するさまざまなアイデアが紹介されていて、特に「マルチタスクを避けるべきだ」という主張が繰り返されている。著者はシングルスレッドで一つのタスクに集中することの重要性について説明している。

  • この主張に従うと、未完了のタスクは脳にとって邪魔なものとなる。なるべく「やりかけのタスク」を残さないように心がけることが推奨されているのだ。面白いのは、脱ぎっぱなしの服や散らかった部屋までが未完了タスクと見なされていたことだ。考えてみれば確かにその通り!

  • では、積読はすべて未完了タスクなので非推奨なのだろうか? 実際、Kindleで本を読んでいるときに複数の本に浮気してしまうこと自体が、しばしば「読了する」という行為を妨げているように感じられた。同様のことが、本棚に積まれたままの未読本にも言えるのかもしれない。現実的な問題として、積読は一つの本を読み終えることを妨げ、悪影響を与える可能性があるかもしれない。

2023年44週_PMの仕事は95%が辛い_人知れず導入されるアジャイル開発

今週聞いたポッドキャスト

ほぼfukabori.fmだったので、列挙してみる。

100. A Philosophy of Software Design (1/3) w/ twada

  • 自分には難しかった。


58. プロダクトマネージャーカンファレンス 2021 w/ Nunerm

  • このポッドキャスト中のPdMの定義は「ビジネスを通じて顧客に価値を届ける活動全部」を指しているような感じで、非常に広かった。
  • PdMとは何かを思い切り抽象化して言う。抽象化した方が、応用範囲が多い。
  • 「PMの仕事は95%が辛い。残りの5%を楽しめる人がやるべき。いや最近はその5%を楽しめているか怪しい」。みんな辛いんだと勇気づけられるコメント。
  • 本当に刺さるニーズを探しに行く。
  • Chenさん(2018):中国のプロダクトマネジメントの違いに衝撃
  • 強いニーズさえ解決できれば価値になる


105. メモリとパケットにはすべてがある w/ y.kajiura

  • 低レイヤに取組んでいる人の話が聴ける回だった。リンク先に書いていることをそのまま転記すると、「SDNの開発、カーネルモジュールのデバッグ、コアダンプの読み方」などについて語られている。
  • 自分が普段取り組んでいる領域はかなり上の方にあるので(要するにPMです)、縁のない世界の話だったけど、分からないなりに面白い。こういう仕事でお金を貰っている人がいるんだ、という感動があった。

最近の仕事:人知れず導入されるアジャイル開発

  • 最近は、エンドユーザーが理解することなく、納得することもなく、それと知らずアジャイル開発が導入された現場で働いている。何かがまかり間違って、結果的にアジャイルでやるしかない状況に追い込まれた。
  • 当然自分もやったことはないし、『アジャイルサムライ』を読んだことくらいしかないが、やるしかない。
  • アジャイル開発では、チームの開発速度を「ベロシティ」と呼ぶ。ものすごく単純化すると、プロジェクトの作業量をかかった時間で割ると、速度がわかる。
  • 実際のところ納期に間に合うかどうかを測るのにはベロシティを計測するしかないように思える。現在は、「1-2週間でこれくらいの機能を開発できているから、多分間に合う/間に合わない」といった判断をしている。
  • 現状、「イテレーション数 = 作業量の合計 / チームの直近ベロシティ」で計算すると、「多分この速度が維持できたら間に合う」という結論が導ける状況ではあるが、この速度が維持できる保証はないし、開発の各工程全部が同じ速度というわけではない。そもそも、まだ各機能の開発ボリュームが均質という(嘘の)前提での資料しか作れていない(ボリュームを相対評価して作り直すのはまた今度だ)。
  • 「そもそもユーザーが上から下まで理解も納得もしていないのにアジャイル風の開発をやるなんて...」と最初は思っていたが、実際にはその逆で、「エンドユーザーの期待に応えられていないのなら、それは毎週価値をきちんと届けることができていないってことだし、逆にユーザーが喜んでるなら"アジャイルである"ことなんてどうでもいい」はずだ、と考えるようになった。本当に刺さるニーズを解決できていたら、ユーザーはもっと食いついてるはずだし。
    • 上から下まで納得していない状態で、アジャイルをやるはめになっているなら、使えるシステムをクイックに提供していくことで信頼を勝ち得ていくしかない(御託を説明する意味はない)、という現実を受容するのだ。
  • 実際に泥縄式にやりながら読んでも『アジャイルサムライ』はいい本だと思った。

2023年43週_Businesses at Work 2023 - Oktaや、生産性改善の記事

Businesses at Work 2023 - Okta

Oktaのレポート、Businesses at Work 2023を読んだ。

Oktaが自社サービスを使っている顧客のデータから、主にビジネス現場でよく使われているアプリのトレンドを紹介するレポートで、毎年公開されている。(ダウンロードするために所属先の情報を渡す必要があるが)

認証周りのサービスを展開していると、こういうデータが収集できるんだなと。

Oktaは結構いい値段のする製品だし、認証周りに投資できる企業という段階でちょっとバイアスが掛かっている気がするけど、ビジネス現場の実態が見えて面白いレポートだった。

以下が読んだ感想。

  • 企業がベストオブブリードを志向するトレンドは強まっているらしい。
  • MS365を契約している企業が一緒に契約していて、機能のダブってそうなツールで、一番契約されているのがZoom(バスケット分析みたいだ)で、年を経るごとにBoxが下がっていっているのは興味深かった。Zoomはともかく、Boxの理由はあまり想像がつかない。
  • 大企業はMS365のようなスイート系サービスにまとめがちで、小規模の企業ではベストオブブリードに傾きやすいという調査は理由がわかりやすい。社員数が増えると、ユーザ単位で課金されるのがきついのと、管理工数を減らすためにどうしてもサービス数は絞りがちになるんだろう。
  • HR系のサービス、Workdayしかわかんねえ。やっぱHR領域は国産が強いか。
  • 「どうせならグローバルで勝ってるSaaSを導入したい」という要望に応えるレポートだ。

Todoistの生産性改善系記事

最近、仕事が自分のこなせる限界を超えてきたので、todoistが公開している記事、Eat the FrogTime Blockingを読んだ。

Eat the Frog

"Eat the Frog"は、要するに一日で一番重要でタフなタスクを朝いちばんにやりましょう、というライフハックのこと。

多分これは、多くの人が実践している、もしくは実践しようとしているテクニックで、特に目新しいものではないとは思う。そもそも、テクニックだとさえ意識せずにやっている場面もあるのではないだろうか。

記事中で語られている"Eat the Frog"メソッドの利点で、なるほどなと思うところは以下。

  • 現代で重要な仕事は大概、深い集中を要するので、タスクを1つやるという制約が自然と重要な仕事にリソースを振り向けることになる。(それもゴールデンタイムの朝に)
  • 人間は一日にこなせる量を過大に見積もる癖があり、それを戒められる。
  • シンプルなので続けられる。
    • GTDもいいかもしれないけど、複雑だし、単に未着手のToDoリストを増やすだけに終わらない?」。ごもっとも。
  • 単純に、何が今日のカエルなのか決めること自体がいい習慣なのだと思う。後述する"Time Blocking"テクニックを自然と実践することになるというか。

Time Blocking

これも"Eat the Frog"と似ていて、多種多量のタスクを細切れにこなすより、限定された種類のタスクを、ある程度まとまった時間に消化する方がいいですよ、というライフハックだ。

マジで最近、マネジメントする分野が広くてこの手法が必要なんだけど、わかっているんだけど、実践できないことのひとつ。

タスクのバッチ化という表現が好き。バッチ処理として実行されるメールチェック。

極端な例として、曜日ごとにやることを完全に区切る方法が紹介されている。

  • 日曜日は計画する日。
  • 月曜日は管理する日。
  • 火曜日は書く日。
  • 水曜日は撮影をする日。
  • 木曜日はトレーニングデイ。
  • 金曜日は……etc...

ここまで割り切れないけど、スイッチングコストが非常に重くなってきているので、こういうことできんとダメだよなあと思う。

記事中では実践的な手法として、todoistやGoogleカレンダーを使ったデジタルなテクニックだけではなく、紙を使ったタイムブロッキングについても紹介されている。

自分も新卒から2,3年目までは紙で一日のタスクを書き出していたけど、ある意味あれに原点回帰した方がいいかもしれない。

読んだ:呪術廻戦第236話 南へ

これまでの話について

  • いちいち数えてはいないが前回のサブタイトルによれば、五条悟VS宿儺が始まってから第14話目。
  • 7月31日に「五条vs宿儺になってから、ナレーションといいかなり喧嘩稼業っぽいのだが、このまま上杉vs芝原みたいにお互い瀕死に近い状況まで追い込んでいくのかもなと思った。」とツイートしたが、実際そういうレベルの戦いだった。

236話の感想

  • 五条悟が死んだ。
  • とにかくそれに尽きる回だった。
  • 五条悟の勝ち確定という特大のフラグを立てた前回ラストから、いきなり空港で五条悟が夏油傑と再開する不可思議な場面からスタートする。
  • もうこれだけで、読者は真相を理解するわけだけど、宿儺の決め技とは別に、この省略の演出自体が本当に世界をぶった切ったような効果をもたらしていた。
  • ここにきて雪が降る湿っぽさもいい。
  • そして湿っぽくなり過ぎず、鹿紫雲がやる気満々で宿儺に向かっていって〆、というのもよかった。
  • そもそもまずタイトルがいい。「南へ」。『北へ。』みたいな。
  • 五条悟の多面性にも触れられる。「俺」が一人称な五条悟と、「僕」が一人称な五条先生の対比も含まれた、美しい終わり。繰り返し出てくる「強者ゆえの孤独」というフレーズは少々唐突に感じられたが、ここでようやく五条悟の過去編と接続されてオチた感じ。
  • 宿儺は、魔虚羅が「宿儺でもできる、五条悟の無下限攻略」を編み出してくれることを期待して待っていたわけで、非常にリスクの高い賭けをしていたのは間違いない。
    • あと一歩遅れていたら敗けていたのは宿儺だったけど、宿儺のラーニング能力の高さは事前に印象付けられていたし、魔虚羅の適応に第三者が模倣可能なものがあるとは思いもしなかったけど、術式を会得した宿儺がその仕様を知っていて利用した、というのはまあ納得できる範囲のサプライズ。ただし、魔虚羅がなぜそのように大層な仕様を持っているのかは不明。

人外魔境新宿決戦の感想

  • 呪術廻戦とチェンソーマンが同時に連載していた時期のジャンプだと正直、チェンソーマンの方が好きだった。
  • 銃の悪魔登場からは、本当に一人の作家の充実期に立ち会っている感覚で、毎週月曜日、背筋に電気が流れるように読んでいた(しかも同世代感が半端ない)。
  • でも『呪術廻戦』の五条VS宿儺は当時のチェンソーマンを彷彿とさせた。楽しかった。

今後の予想

  • なんやかんや鹿紫雲が宿儺とタイマン張るチャンスが来るとは思っていなかったので驚き。ここであんまり尺を取っている暇はないので、次週出し惜しみをせずに術式開示というところだろうか。
  • メタ的に考えると、伏魔御厨子が残っていたら、何人が束になってかかっても一方的に嬲り殺されるだけだから、そこは封じたということなんだろう。

映画『アステロイド・シティ』/フィクションを救う現実

2023/9/7鑑賞

  • 監督:ウェス・アンダーソン
  • 1955年、アメリカ南西部に位置するアステロイド・シティは、街というよりも、荒野にぽつんと現れたパーキングエリアと呼称したほうがよさそうな場所だ。施設は、ガソリンスタンド、モーテル、ダイナー、建設途中で放棄された高速道路、隕石が落下してできた巨大なクレーター、そして研究施設しかない。
  • そのアステロイド・シティに、科学賞の栄誉に輝いた5人の天才的な子供たちとその家族が招待されたところから物語は始まり、やがて訪れた授与式の途中で宇宙人が現れてしまう。
  • ウェス・アンダーソンの2年ぶりの新作には、西部劇的な舞台とSF映画のガジェットが組み合わされているが、取り急ぎそれは大して重要なことではない。
  • 驚くべきことは、予告編でも触れられておらず、公式ホームページに掲載されているあらすじには一切書かれていないことだが、この『アステロイド・シティ』は実は劇中劇で、冒頭は舞台裏の紹介から始まる、ということだ。
  • 脚本家の登場。役者の紹介。舞台セットの説明。舞台袖の解説。
    • ここでは、三人の人物をスタンダードサイズの画面(往年の映画の標準的なアスペクト比)に入れるにあたって鉄板の構図である、三角形の構図をウェスが高い次元で再現できることが示されているが、ひとまずそれも本題ではない。
  • ジェイソン・シュワルツマンが四人の子供たちに隠していた妻の死を明かす場面では、思わずその痛ましさに眼をそむけたくなるのだが、ふとこれが演劇であり、すべてが嘘だということを思い出すことで気をそらそうとしている自分がいる。
  • したがって戦場カメラマンであるジェイソン・シュワルツマンが、あたかも職業的にこびりついた動作であるかのようにカメラのシャッターを切るたびにも、それが職業的な運動ではなく台本にある通りの行為であるのだと思い返すことになるわけだ。
  • そういった風に観客が自主性を発揮せずとも、当然、映画はたびたび観客に冷や水をかけてくる。ジェイソン・シュワルツマンは舞台裏ではべりべりとその見事な顎髭をひっぺがし、パイプではなく紙タバコで一服するし、劇中では妻帯者だが、舞台裏では男の脚本家と懇ろになるのだ。
  • ウェス・アンダーソンが劇中劇や枠物語を用いるのはもちろんこれが初めてではない。『天才マックスの世界』では学園祭で妙に舞台美術に力の入った演劇が演じられ、『ライフ・アクアティック』では絵本のように嘘くさい世界観で海洋体験家がドキュメンタリー映画を撮影するという転倒があり、『グランド・ブダペスト・ホテル』はストーリー自体が何重にも入れ子構造になっている。
  • また『アステロイド・シティ』では、妻を亡くした戦場カメラマンが、フィクションの魔法を借りてその妻と再会する。
  • これもまた、別に珍しいことではない。死者との再会はフィクションにおける、いわば伝家の宝刀だ。死んだ祖父とつながった電話や、タイムトラベルで母親に会いに行くヒーロー、そのように虚構の奇跡を利用して、”たまたま彼岸に繋がってしまう”ことはよくある。
  • しかし、『アステロイド・シティ』で起きている事態はいささか複雑だ。ジェイソン・シュワルツマンの亡き妻は、上映時間の大半を占める劇中作のなかでは殆どまったく出てこない。生前の写真が一枚、残されているだけだ。
  • 上演の途中で役がわからなくなったジェイソン・シュワルツマンが脚本家に助けを求めるが「わからなくてもいいから演じろ」と突き放されたので、数分だけ劇場を抜け出しベランダでタバコをふかす場面で、ふとカメラが横移動しはじめる。
  • これもまた珍しくはない。横移動するカメラはウェス・アンダーソンのトレードマークでさえある。
  • しかし、そこから奇妙な転倒がはじまる。そのカメラが移動した先には、出番をほとんどカットされた亡き妻役の女優がいたのだ。
  • 通常、フィクションの中で起きる死者との再会は虚構の上に築かれる。タイムトラベルという虚構や、夢という虚構、録音された声や、残された伝言、渡し損ねた手紙などの上にフィクションの魔法はかかる。
  • しかし『アステロイド・シティ』では事情が異なる。〈アステロイド・シティ〉自体が虚構であり、妻が亡くなったことに苦しんでいるジェイソン・シュワルツマン自体もまた虚構であるため、むしろ逆に現実や、舞台裏がフィクションの悲しみを救済することになるのだ。
  • あたかもわたしが、母親の死を知らされて受け止めきれずにいる三人の幼い娘たちを見て心が痛んだので、〈アステロイド・シティ〉が(いや『アステロイド・シティ』が?)虚構だということを思い出そうとしたかのように。
  • 再会したジェイソン・シュワルツマンと、亡き妻役の女優、すなわちマーゴット・ロビーはそこでセリフを確認する。それはただのセリフ合わせに過ぎないが、しかし間違いなく〈アステロイド・シティ〉という劇中劇を救っている。